魅力的に見える仕組みの商品の購入は慎重に

このコラムでは3,4年前に人気があった損失限定型投資信託についてその後どうなったか見てみたいと思います。例にとるのは、日本で最初に損失限定型の投資信託とされ、大手銀行が販売に力をいれ一時は残高2000億円を超えていたファンドです。

https://www.amundi.co.jp/fund/pdf/100111/100111-anshin_switch-pros-01-202010.pdf#page=3

損失限定なのでこの1年のコロナショックをどう乗り越えてきたのか期待したいですね。

注)このファンドを推奨・非推奨、また評価するものではありません。長期の資産運用で成果を得るための考え方、商品選びの基準などを整理するための例として取り上げるものであることをご理解の上お読みください。

3ページのファンドの目的・特徴を見てみましょう。

安定した収益の確保と投資信託財産の中長期的な成長を図ること、を目的としているようです。特徴は、3つあります。

  1. 元本から90%のラインをプロテクトラインとして、それを下回らないようにする。仮にそのラインに達したらそれ以上損をしないように繰り上げ償還する。
  2. 基準価額が上昇するとプロテクトラインも上昇、一度上がったプロテクトラインは下がらない。つまり一度値上がりしたらそれを確保していく、といことのようです。
  3. プロテクトラインについては欧州大手銀行が保証する

これだけ見るとすごくよさそうに見えますね。4ページの仕組図を見ると、どんなに悪くても損失は最大10%、運用は大手運用会社がやるので大丈夫だろう、これならそんなに心配しなくても投資ができそうだ、と感じる人も多かったと思います。

↓↓こちらは1月末時点の月次運用レポートです。↓↓

https://www.amundi.co.jp/fund/pdf/100111/100111-anshin_switch-m-20210129.pdf

1ページのファンドの概況を見ると、1月末時点の基準価額は、9061円、プロテクトラインの9000円をわずかに上回っています。次のスイッチ10600円とありますが、これは10600円になったらプロテクトラインが上がる、という意味です。

1ページ下の方に推移グラフが2つあります。上の青の実線があるグラフは基準価額と純資産残高の推移を表しています。2017年7月の設定から2020年1月までほとんど値動きがない状態で推移していますが、2020年2月のコロナショックではプロテクトライン近辺まで急落しています。

下の緑赤青のグラフは、株式・債券・短期金融資産の配分の推移を表しています。コロナ以前の平時の時でも株式の割合は20%以下です。さらにコロナで株式が値下がりするとほぼすべてを短期金融資産にしていることがわかります。

2ページ上右の資産配分比率を見ると、2021年1月末時点でも株式比率は0%であることがわかります。

以上がとても魅力的に聞こえた損失限定型のファンドの現在です。これを見ると、確かに損失は限定していますが、株式を良いときでさえ20%程度しか組入れていないのですから、ファンドの目的に謳っている「安定した収益の確保と投資信託財産の中長期的な成長」を期待するのは少し無理があるように感じますね。

さらに本来損失を避けてほしいコロナショックの影響はもろに受け、その後の回復の恩恵は全く受けていません。株式市場は時として大きな下落を伴いながらも成長していく、という誰でも知っている事をできないようにしている仕組みです。一見、都合の良い仕組みに見えるものほどそううまくはいかない、と思っていたほうがよいでしょう。

では、どうすればよいでしょうか?

考え方は2つあると思います。

一つは、私たちの経験とノウハウで上手に値下がり、損失を避けてあげますよ、という商品を選ぶのではなく、シンプルな株式ファンドを買って値動きを受け入れて長く持つ、ということです。値動きを受け入れる、というスタンスになれば怪しい商品に手を付けなくてよくなります。

もう一つは機能を分解して考える、ということです。

仮に1000万円の投資資産があり、殖える期待がもてるなら100万円くらいのマイナスならよい、と考えるならば、1000万円全部を複雑な仕組みの商品にするのではなく、1000万円のなかから200万円から300万円くらいでシンプルな株式ファンドを買って、長期保有しておけば良いわけです。分散している株式ファンドなら「ゼロ」になることはないといってよいですし、投資直後にリーマンショック級の下落に遭っても想定損失程度です。

ちなみにこのファンドの信託報酬は年率1.463%です。一生懸命良い企業を探してくれているのであればよいですが、コロナの時は株を売り払いすべてを短期金融資産にし、その後も少し債券を購入しているだけです。

立派な金融機関がそれらしい資料を作って説明してくれるともっともらしく聞こえますが、今までの資産配分推移を見る限り次のように言い換えることができそうです。

マーケットが平穏の時も恐る恐る株式投資をし、少し大きく値下がりすると怖くなって売ってしまう。回復基調になってもビビッて買えずに、下がった時のままで放置している。

このようなものに、1.4%のコストを負担する、というのはちょっと納得いかない印象ですね。

この手の一見よさそうな商品は今後も次から次へと出てくると思います。勧められてた場合は慎重に検討していただきたいと思います。